プロフィール その3

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さて、大きな期待と希望を抱いて新社会人スタート!
って訳には行きませんでした…。

「動物園」と言っても田舎の民間会社でしたから、それはひどいものでした。
 
動物はとにかく生きていりゃいい。死んだらまた生ませればいい。
動物の健康状態など考える必要はない。オスとメスを一緒にしておけば繁殖する。
飼育員は動物観察など必要ない…。

こんなひどい状態を上げれば切りがないほどでした。
でもお客様はたくさん入っていたので、会社としての利益は多かったと思います。

 「こんなはずじゃなかった。ここは動物園じゃない…。」入社1週間で辞めようと思いました。が、それは悔しい。

毎日自分に何が出来るかを考え行動しました。
先輩たちが休憩している間は動物を観察しました。
1時間で終えろと言われた仕事は30分で終えて、30分は動物の個体識別に費やしました。
ある先輩からは、「動物を見ている暇があるなら、ゴミでも拾え!」と言われましたね。

でもこんな飼育管理では、いつか何かで行き詰まる。
個体毎を確実に識別し、血統を管理して適正なペアリングを実施して血の更新を進める。餌を変更し、動物の健康状態を向上する。
飼育施設内の環境改善を実施して、動物が本来持つ行動レベルを向上する。

その一つ一つを提案し、自作して結果を提示し改善してまた実行することを繰り返しました。

結果はすぐには現れませんでしたが、徐々に飼育管理の基本的な実施に近づけることが出来ました。
少しずつ結果が出始めたことで、少しずつお金も出してもらえるようになりました。
この繰り返しが動物の施設改善と飼育管理改善向上につながったと思います。

入社2年目には、動物本来の持つ行動が発揮出来る施設の構想案を会社へ提案しました。
この時には法律の関係上、これは叶わずでしたが、一切諦めることなく様々な情報を集めて結局18年後にこの構想案は実現して、新たな動物飼育施設が出来ました。
諦めずにやり続けると、いつか形になって出来るんだ、とわかりました。
やっぱり、安西先生の言う通り。「諦めたらそこで試合終了ですよ。」(SLAM DUNKより)

社内からは得られなかったアドバイスは、近郊地域の他の動物園水族館の先輩たちから頂いたものも多くありました。職場や立場は違えど、同じ動物飼育に携わる「飼育員」からのアドバイスはとても貴重でありがたいものでした。
私が入社した会社には、そういった他施設との交流を実施出来る枠組みがあったのですが、この枠組みこそが飼育員を育てることに深く強く関わっていました。

入社当初は、動物の観察は必要ないと言っていた先輩はいつからか何も言わなくなり、
私は35歳でここの園長に昇格しました。

園長として対外的な役割も実施する中で、この飼育施設の限界も感じていました。
会社経営者であるオーナーの生命観と私のそれが決定的に違っており、どうやってもそれは改善出来ませんでした。

40歳の時にここの取締役に選任され、経営者として他の部署の運営管理も受け持つようになりました。今までは「飼育」についての選任だったわけですが、総務・営業・物販や経理も担当になり、何もわからず苦慮しました。
各現場の担当者からは、「どうしますか?」と毎日言われ即判断を求められていましたので、各部署の業務内容を把握して決断できるようにするために、いろいろな勉強を短時間でしましたね。

経営者にとって財務を知らないことは命取り。
古本を買ってきて勉強しましたね~。運営経費がショートしなければ、赤字運営でも倒産しない。一方で、来月入金になると一気に黒字になるけれども、今月支払う資金がショートすると黒字でも倒産する。
今は当たり前に理解出来ることが、40歳を過ぎてようやく理解出来ました。

飼育員時代は宿直もありました。宿直は眠れませんでした(笑)。
猛獣が逃げ出して目の前にいる夢をよく見ました。
それが、財務を担当するようになるとみる夢が変わりました。
今度は、資金ショートで倒産する夢! 気が小さい証拠です。

営業にも出張しましたよ!

でも地方の小さい動物園。
大手の旅行代理店へ挨拶に行っても担当者にお会いできることはあまりなく、パンフレットを置いて帰ってくることの連続でした。
奥から「いないって言っておけ!」という声が聞こえることもしばしばでした。

42歳の時、そう、厄年! いや!違う!
この年に、先述した18年想い描いていた施設が出来ました。
動物にとって最高の環境の施設です。

許可を出す役所に初めてこの施設構想を持ち出してから12年経過していました。
一番最初に話を聞いてくれた当時の係長さんが12年後に課長になって戻ってきて対応してくれましたが、「諦めてなかったんですね~。」と感慨深げでした。
12年間の間対応してくれた係長さんたちは皆、「法律が変わらないと絶対に許可出来ませんね。」と取り付く島もない状態でしたが、許可が出る数年前に法律が変わって設置可能になったのです。

ただ、施設の内容については私が提案したものとはかなり違ったものになってしまいました。
オーナーから入園単価を高く設定出来るようにと他の想定外の要素が加わったのです。
この要素は、飼育員の安全性を下げ、そして見た目の展示効果も下げることになってしまいました。
ただ、動物にとってはあまり環境的な変化がなかったことだけが救いです。

諦めなければ叶うものですね。

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