飼育員とは
動物の飼育員と言ってもいろいろなジャンルがあります。
動物園や水族館のような、野生の動物を中心にしている施設。
牧場や農場のように、家畜を中心にしている施設。
そして、イヌやネコなどの愛玩動物を中心にしている施設。
いずれも共通しているのは、「命」を預かっているとても重要な役割だということです。対応している人間側のほんの少しの気の緩みや、「まあいいか。」といった甘い妥協によって、あっという間に命が奪われてしまうことも少なくないのです。
動物飼育施設の飼育員になりたいと思って面接に来られる方は、ほぼ100%こう言います。
「私は小さいころから動物が好きで、飼育員になることが夢でした。」と…。
そして晴れて飼育員として採用された人の多くが失敗を怖がって行動しなくなってしまいます。
「動物が好き」は、個人の感覚です。
動物の飼育員を目指す方は皆さん間違いなく「動物好き」です。
でも、「好き」だけでは絶対に続きません。
では動物の飼育員としてそれを仕事にし続けるには何が必要なのでしょうか?
動物園水族館の飼育員
動物の飼育員はみんな一緒?
同じ「命」に深く関わる仕事であることは同じです。 ですが、この「命」。
人間との関わりが全然違うのです。
皆同じ生き物。同じ「命」なのに・・・。
動物園や水族館で飼育展示している生き物のほとんどは、「野生種」です。
今もとても過酷な自然環境の中で生きている野生の生き物です。
野生の生き物は人間との直接的な関わりが非常に少ない生き物です。
一方人間からの影響によって、その生息環境は大きく左右します。
その点からは関わりが深いのですが。
野生の生き物のことは未だよく知られていませんし、わかっていません。
では、そんなよくわかっていない生き物をどうやって飼育するのでしょうか?
掃除して、飼料を作って、給餌して・・・。
この繰り返しだけでは絶対にわかるようになりませんね?
知らないからこそ「知りたい・知ろう」という意欲と観察が必要です。
そしてその生き物はいったいどんなところに生息していて、そして特性や習性はどういったものをもって自然下で生き残っているのか。
あくなき探求心と意欲の継続が必要です。 それが飼育員になってから引退するまで約40年以上にもわたって続く情熱も 当然必要です。
動物園の飼育員も、水族館の飼育員も根本は同じ。
直接的に担当する動物が陸上の動物なのか、水に関わる動物なのかの違いだけ。
陸も海も空も環境はつながっていますので、この環境に興味を持ち、 そしてその中で生き抜く野生の生き物に対して、飽きることのない探求心が一番必要になってくるのです。
よく「好きを仕事に」って言うけど、それだけじゃ続かないってこと!
愛玩動物の飼育員
「愛玩動物」と言うのは簡単に言うと「ペット」です。
イヌやネコ、小鳥や金魚。最近はヘビやフェレットといった野生動物もペットにする人たちが増えてきています。
彼らの「命」は人間のための命です。
人間が癒されたりかわいいと思ったり、鳴き声を楽しんだり触感を楽しんだり…。
人間のために長い年月をかけて姿形が変わってきた生き物です。
先ほどの「動物園水族館」で飼育している「野生種」を飼育する基本は 動物種それぞれの習性や性質を発揮できるように「動物ファースト」でしたが、ペットを飼育する基本は、そうではなくなります。
そう!人間にとってどうか、という主観が大きくなって行きます。
人と共に生きて行く「ペット」ですから、人間主体です。
例えば「ウィルッシュ・コーギー」という種類のイヌ。
もともと尾があるのですが、生まれて間もなく切り落とします。
それは、飼い主にとってその方がかわいいから。イヌにはその選択の権利はありません。
イヌはもともと野生の小型イヌ科動物の中から、おとなしく人懐っこい個体を
人里で飼育し出したことが始まりのようです。
生まれて間もなく親とはぐれたところを見つけて拾ってきて飼育したという
ことも少なくなかったことでしょう。
何万年も前のことですから、こういった「番犬」と一緒に暮らすことで、人間は安心して一晩中眠ることが出来るようになったと思います。
こうして慣れていった個体が繁殖してさらに人に懐く種類が増え、そのうちにどんどん種類も増えていったと思われます。
人間との長い歴史があり現在に至っているので、野生動物に比べるとはるかに動物の習性や生態がわかっています。生態や繁殖の生理、寿命や性質、種による特性など。
「動物好き」=「動物と一緒にいることが好き」な方は、このジャンルを選ばれる
と意欲をもって毎日仕事が出来るかもしてませんね!
でもやっぱり家で一緒に生活しているペットは、理屈抜きでかわええよ!
家畜施設の飼育員
さて最後は「家畜」です。
ウシ・ウマ・ブタ・ヒツジ・ヤギ・ニワトリ・・・
実はミツバチも「家畜」の分類です。
家禽の中にはニワトリの他にアヒルやアイガモ、ウズラや七面鳥なども入ります。
家畜は、人間が利用するために長年改良された「命」です。
肉・乳・卵・皮など、いろいろな部位や生産物を「衣」や「食」として
利用させてもらっていますね。
彼らの命がなければ今や世界中の人間は生きて行けません。
いつかは人間のために命を落とすことになるのですが、それまでの過程においては、
動物園水族館動物や愛玩動物以上に衛生管理を厳密に行い、安全で健康な生産物として育て上げなければなりません。
ですが一方で、かける経費と生産物との金銭的な割合が崩れる前に、経費増を避ける措置を取って行く必要があり、感情に押し流されているとその飼育施設=農場が破綻します。
今は安全で危険性のない農産物であることを認証するHACCPを取得して安全性を最大に表化する農場も増えてきています。
養鶏場などにおいては、場内への伝染病の侵入を防ぐために、農場の管理敷地内に入る場合には車両や靴の裏を消毒したり、動物飼育施設内にはその農場の係員ですら入らない運営管理が実施されており、卵の生産量が一定値を下回るとすべての鶏を廃棄して新たに若い鶏を入れ替える「ALL IN ALL OUT」が主流になっています。
一方で人為的に衛生管理するよりも、鶏本来が持つ強さをさらに増して生産物に
付加価値を付ける個人経営の養鶏も増えています。
土の上でのびのび暮らし、草やミミズを食べて成長して卵を産む。
親鳥が逞しければ、卵もビタミン豊富な逞しい卵になり、1玉で200円もする価値ある卵として販売出来るような飼育管理も実在します
家畜施設はあくまで生産物によって生業を得るわけですが、動物が健康であればあるほど、その生産物にも価値が出てきますので、やはり飼育の基本はどれも同じです。
いくらきれい事言っても、食べ物は命。命を頂かなければ死んでしまうことは明らか! だから毎度食事前には命を「いただきます!」だよね!
動物の飼育員の役割
動物の飼育員の役割とは何でしょうか?
動物舎の掃除をして、餌を用意して、給餌して…。
そして動物を観察して、お客様に発信する。
ざっくり言うとこの通りですが、これだけではやっぱり足りません。
飼育動物が「生きる」ために必要なことを揃えて行くことだけが飼育員の役割ではありません。
人間にも地域制や文化、風習など様々で、生活様式といっても一つではありません。
動物もそれぞれ、千差万別です。
だからこそ、生き抜いて命をつないで来ているのです。
しかも飼育施設は野生下に比べてはるかに狭く、活動的ではありません。
気象変動もなければ、食べ物を探すことも出来ない。
生きる上で必要な一種の「障害」がほとんど飼育下にはありません。
その状況で、「生きている」のではなく「生きる」目的を持ち、それぞれの個性的な生態や習性を発揮出来る環境を日々作って行かなければならないのです。
食事は1日3回。夜は布団に入って朝まで眠る。
風呂に入り、休みの日は1日中自分の好きなことをする…。
動物にとってこんな決まりきったルーティンでは、飽き飽きして生きて行く気力を失ってしまいます。
まずは動物のことを知ろうとすること!そして飼育環境の改善を常に続けること!
これが飼育員にしか出来ない重要で大切な役割です。
だから終わりはありません。
知ったことだけ改善策があり、これを実行し続けることで動物の飼育環境は刺激的に改善されて行くのです。
そしてもう一つ。動物の不思議を知ったら知った分だけ、人に伝えること。
飼育員は、動物と人間をつなぐ「インタープリター」です。
動物のことをわかりやすく伝えて行くことも、飼育員として重要な役割なのです。
動物に興味を持っていれば、普通は見続けるよね? 見れば見るほど発見ばかりだし!
動物の飼育員に必要なこと
飼育員にとって重要で大切な役割を日々達成するのに必要なことは?
掃除して、餌を作って、給餌して…。
って、何度も同じことを言われなくてもわかる!ってなりますよね?
この繰り返しだけではまったく足りないって!
まず必要なことは、飽くなき探求心です。
「なぜなぜ?」っていう疑問が尽きないしつこさが必要です。
相手は一生かかっても絶対に知り尽くせない動物だからです。
知りたいという探求心がなくなるとそこからまったく進歩しなくなります。
飼育員が進歩しなくなるとどうなってしまうでしょうか?
飼育員であっても人によってはそれでいいと思うかもしれません。
個々人の意思であり、自由であり、それでも1日の勤務時間さえ過ぎれば給料が減ることはありませんから。
でも、そんな飼育員が担当者の動物は苦痛です。
飼育環境も変わらず、生きる刺激が飼育施設内には発生しないのですから!
飼育動物は飼育員の「もの」ではありません。
飼育員は動物を飼育しているのではなく、「飼育させてもらっている」のです。
動物のことを知り、そして環境改善を実施するためにはもちろん自己努力が必要ですし、情熱も必要です。これはどんな仕事でも当てはまることです。
人から何か言われなければ気付けない。
人から何か言われたことしか気付けない。
これでは動物の飼育環境が向上することはなく、結果的には動物の命にも関わる非常事態が起きることも…。
命に関わる仕事だからこそ、毎日毎日が真剣勝負で、「一生懸命」に努力する、とっても泥臭い基本的な感情が必要なのです。
新入者として飼育員になれてから、定年で退職するまでの約40年間にわたって、ずっとこの気持ちを持ち続けるだけのエネルギーと情熱・気力も絶対に必要なのです。
気力と情熱! 昔のスポ根だな…。 でも命の関わることだから半端な気持ちじゃ、続かないよね!
動物の飼育員に必要な資格
どんな資格・免許も、無いよりはあった方が有利です。
特に国家資格や国家免許は一生のものですので、取得までに時間もお金も必要です。
獣医師や家畜人工授精師、削蹄師など、大学で単位を取り試験を受けて取得するものもありますので、これらを取りたいということであればやはり畜産系や獣医系の大学、
水産や海洋系の大学に進学した方がいいでしょう。
また、ペット系飼育施設へ就職したいということであれば、「愛玩動物栄養管理士」といった資格を取得していた方がいいと思います。
こちらは多くの動物系専門学校へ通う中で取得可能です。
学芸員や教員免許なども4年生大学で一定の単位を取得していなければ得ることが出来ない資格です。
水族館の飼育員を希望している方からよく聞かれることは、「潜水士」の資格です。
これは水族館の飼育員の業務の一つに、水槽内へ潜水してその内部を清掃することがあるためですが、どこの職場でも入社後に企業の経費で取得してもらうので、慌てて取らなくても採用の条件にはまったく影響はありません。
ご心配なく!
現在私はいろいろな免許・資格を所得していますが、普通自動車の運転免許と動物関係の免許は大学時代に、それ以外は社内人になってから必要性があって取得しました。
社会人になる前に取っておいた方がいいものは、自動車の運転免許くらいかと思います。
自主的に取得することにはとてもいいことと思いますが、先述の通り、採用の条件には一切ならないですから!
必要があれば、入社後に会社の経費で取らせてくれるよ!
動物の飼育員に向かないタイプ
ここまで読んでくれたあなたなら、もうすでにわかっていると思います。
情熱とエネルギーのない人には続きません。
動物の飼育員が多くの他の仕事と決定的に違うことは、「命」を預かる業種だということです。
「命」を預かる他の業種といえば、医療関係や介助関係、警察や消防などがありますよね?
直接向かい合う「命」が少し違うだけで根本的には同じです。
こちら側の妥協は許されないということ。
そうです! 「まあ、今日はこれでいいか…。」は絶対に出来ないのです。
ですからその日その日を力一杯全力で過ごすことが出来ない人には、長年続けて行くことがとても難しいと思います。
また、他人の目を気にして発言しなかったり、エゴサーチばかりしていたり。
失敗を恐れて行動しなかったり、ちょっときつく言われるとすぐに折れてしまったり。
気合や根性で仕事をするわけではありませんが、「負けず嫌い」な性格が必要だろうと思います。
動物園や水族館の飼育員になりたいと思っているあなた!
これから対応しようとしている動物は「野生種」です。
野生の動物は過酷です。
常に「食う食われる」と隣り合わせです。
もちろん生息環境も過酷。
この想像を絶する過酷な環境の中で行き残り、そして自身の遺伝子を残すには、動物種によってとても個性的であり、それぞれ個体によっても個性的でなければ生き残って行けません。
他人を気にして平均的になってしまっては、個性が発揮されません。
それでは個性的な動物のお世話をする飼育員は務まりません。
自主をしっかり持ち、自身の考えを発現し、行動してたくさん失敗をする。
これをやり続けられない人はやはりこの職業には向いていないと判断せざるを得ません。
厳しいな~。 でもだからこそやりがいがある! 一度はまると抜け出せないよ!
動物の飼育員の収入
これはまちまちです。
運営が県や市などの自治体であれば県庁職員や市職員に準じています。
だいたい大卒者であれば、初任給は18~20万円くらいだと思います。
獣医師であればさらに数万円は多くなるでしょう。
高卒者の初任給は15万円くらいと思います。
地域差があり、人口集中地域はやはり高く、地方自治体は首都圏よりも低くなっています。
運営が民間会社であれば金額差はさらに大きく、初任給もさまざまです。
ですが、労働者の最低賃金(時給)が決められており、これを下回ることはありません。
全国で一番最低の賃金は、岩手県・青森県や九州沖縄で決められている790円、最高は東京で1,013円です。月給の場合は、月の労働時間から割り返した時給はこれらを下回ることがないよう各職場で決められています。
採用の条件はまたさまざま。
アルバイト、単年度の契約社員、複数年の契約社員、正社員…。
公的施設以外は正社員募集はさほど多くないようです。
関東や関西などの水族館などでは、新規採用者はだいたい3~5年くらいの期間の契約社員として採用をしています。
親元から離れて就職し、アパートを借りて自炊する場合、手取りの金額ではなかなか生活も苦しいという話も聞こえます。
動物園水族館、愛玩、家畜と、そのジャンルでも公的施設や民間施設があり、それによって給与差は随分あるようです。
動物園水族館で言うと、両方合わせて全国には約200施設以上あると思いますが、動物園ではこのうち6割程度、水族館は4割程度が公的施設です。
家畜においても畜産試験場や公的農場もあり、国営や県営です。
一方では巨大な会社が経営している養鶏場や農場も少なくなく、血統の優れたオス牛を飼育し、人工授精に使用する精液を採取し販売する会社などその内容も多岐にわたっています。
愛玩においても、警察犬訓練所や介助犬訓練所などは社団法人として運営されているところが多く、公的な要素が比較的強く運営されています。
トリミングを行っているペットショップやペットホテル、繁殖販売を実施しているブリーダーなどは個人で経営されているところも少なくないようです。
IT関係や金融関係、製造業などと比べると、業界全体では低いと感じています。
詳しくはこちらもご覧ください。
飼育員は肉体的にきつくて汚くて、しかも給料安いってか!
動物の飼育員の求人
公的な施設であれば、都道府県や市町村の採用試験をよく調べておくこと。
また今はどこの施設もホームページを持っており、施設ごとに採用情報を公開しています。これは施設ごとによるので、時期はばらばら。
公的施設も民間施設もこれは同じです。
また、リクナビやdudaなどの転職エージェントや転職サイトに登録して希望する業種の求人を紹介してもらうことも可能です。
動物園や水族館で言うと、定期的に新入者を採用する施設と、欠員が出た場合に募集する場合があります。どうも後者の方が多いようです。
全国で約200施設あるとして、その一施設に飼育員が20名いたとします。
ということは、動物園水族館の飼育員は全国で約4,000名。
とても狭き門に感じますよね?
でも実際にはあちこちの施設で欠員が出るんです。
退職者が退職する理由は人それぞれですが、入る前と後で、その意欲も情熱もエネルギーも消滅してしまう人が少なくないのです。
しかも入って数年で…です。
ですから学校に来る求人を待つことなく、自ら積極的に探してどんどんエントリーしてみることで、夢の飼育員への扉は開けてくることでしょう!
個性的に、失敗を恐れずに行動してください。
そうすると必ず道は開けます。
諦めずに行動することで、必ず道は開ける!
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