もうかれこれ35年ほども前の話です。
入社2か月目に飼育動物を逃がしてしまいました・・・。しかも猛獣。大騒動になる前に動物は収容出来ましたが、私はそれで首になると覚悟しました。
「いつも通り」の作業のつもりがとんでもないことに・・・
あれは入社して2か月目の5月の半ば。
日々の仕事にも少しずつ慣れて来て、特別なことがなければ何となく1日の業務の流れもわかってきた頃でした。
後で思い出しても、「慣れ」は一番危険だな、と痛感しています。
5月になったとは言え、朝夕や雨が降るとまだまだ寒く、その年に生まれた猛獣の仔にとっては終日屋外にいることは少々厳しい季節です。
日が射すと暖かいので放飼場へ出していた仔ですが、雨が降ると獣舎の扉を開けて自由に獣舎へ入ることが出来るようにしていました。
獣舎をシェルターとして使用していたわけです。
その日は朝方晴天。日射しも暖かく、朝から仔を放飼場へ出しその後は獣舎内に動物がいないことを確認して扉を開けて清掃を行いました。
その後獣舎の人用扉は換気のために開けていました。
もちろんこの扉の外側にはもう一つの柵があり、二重壁のために何かが起きても動物が施設外に逃げないようになっています。
昼休みが終わろうとしているとき、急に雨が降り出しました!
先輩:「おっ! 雨降ってきたな。いつものように仔の獣舎扉開けて来てくれ!」
私:「はい、了解です。 俺、行ってきます!」
先輩:「おぅ! 頼むな!」
私:「はい!」
急いでダッシュして獣舎の放飼場側扉を開けました。
仔は「待ってました!」とばかりに獣舎へ入って行きました。
血の気が引くってこうなるんだ・・・
自分がやったことに何の不安も持つことなく、私は次の指示業務へ向かってそれを行っていました。
・・・が、なんだか仔の獣舎付近が騒がしいような・・・
そして約1時間後、上司に呼ばれました。
上司:「お前、仔の獣舎の扉確認したか?」
私:「放飼場の扉は確実に開けて、仔は中に入って来ましたよ?」
上司:「いや、だから、獣舎の扉だって!」
私:「だから、開けましたって!」
上司:「そうじゃなくって、獣舎の人用の扉、閉めたか?」
私:「人用の扉って? あっ!」
上司:「仔が開いている人用の扉から屋外に出て、格子を伝って獣舎の上にいたんだ!お客さんが教えてくれて、すぐに捕まえたからよかったが・・・。人用の扉は閉めてなかったんだな!」
私:「・・・はい、閉め忘れました。」
上司:「バッカじゃないのか?それなら逃げるのは当然だろ!すぐに常務のところに謝りに行け!」
顔から血の気がサーっと引くのを感じました・・・。
前代未聞の新人だ!
すぐに常務のところへ謝罪に行きました。
私:「大変申し訳ありませんでした・・・。」
常務:「あんたね~、入社2か月目で動物逃がして!前代未聞ですよ!今までそんな新人いなかった!飼育係が動物逃がすって!」
私:「注意不足で事故を起こしてしまい、本当に申し訳ありません・・・。」
「ああ、きっと首だな・・・。飼育員が動物を逃がすって、一番やっちゃダメなやつだよな…。」と思いながら、常務の叱咤を受けるしかありませんでした。
常務:「まず、どうしてこうなったのか!今後はどうするのかを記載した始末書を出しなさい!処分はそれからだ!」
私:「はい。」
1週間後、顛末と今後対策などを記載した「始末書」を提出しました。始末書を提出したのは、後にも先にもこれだけです。
背中に汗かきながら、状況は図を描きながら1枚のペーパーに書いたことを覚えています。パソコンなどない時代でしたので、当然手書きです。
始末書を上司に提出し、その後直接常務のところへ持って行きました。
この時によくドラマで見る、「お前は首だ!」と言われるのだろうなと覚悟していましたが、「今後は十分に気を付けなさい!」という一言。
会社の処分は、「厳重注意」という内容でした。
この一件以来、獣舎扉の確認はしつこさに加えて、声も出して確認することで、同じミスは起こしていません。
とても大きな失敗でしたが、失敗から得る教訓も非常に重要です。
ちなみに逃がした動物の仔は、「クマ」です(笑)。
今でもその時の情景ははっきりくっきりと覚えています。
失敗から学ぶことはとても大切。でも、動物逸走は飼育員としてやってはいけないこと。
声出しの点呼確認はとっても大切ですよ!
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