2018年、日本はIWC(国際捕鯨委員会)から脱退し調査捕鯨ではなく、商業捕鯨を再開することになりました。
国際的に捕鯨に対して否定的・批判的な国際情勢の中でこの決定は、日本国内はことより世界中で大きな話題になりました。
一方国内では、毎年9月から翌年3月までの期間、水族館で人気の「バンドウイルカ」など小型の鯨類について、食用として捕獲を継続しています。
水産資源としての鯨類
日本は古来、近海に来遊する鯨の仲間を捕獲して食用に利用していました。
私が子供の時にはクジラ肉は牛肉よりもずっと安く、学校の給食にもよく竜田揚げが出て来て、おいしくてお替りしました。
その後多くの鯨類では生息数の減少が見られてきて、IWCでは調査を継続しながら年間の捕獲数を制限する国際的な管理を実施していました。
日本の近海においては、静岡県や和歌山県では小型の鯨類の捕獲を継続して行っており、それは今でも続いています。
毎年9月から翌年の3月までが漁期で、水産庁が決めた頭数までは捕獲して水揚げすることが出来る適法漁がそうで、「追い込み漁」が主の漁業法です。
もちろん追い込み漁も水産庁が認めている漁です。
水産庁が決めた2020年度の鯨類対象種と頭数は以下の通りです。
国が決めた漁の方法で、国が決めた捕獲数を漁業者が水揚げすることには何の問題もありません。アジやイワシ、サンマやタイを水揚げすることと同じ。
ですがほとんどの方が、どんな「鯨類」が対象なのかを知らないではないでしょうか。
鯨類=クジラの仲間とは?
クジラの仲間と聞くと、ザトウクジラやマッコウクジラなど、体長が10m以上の大きな動物をイメージされると思います。
ですがイルカも「鯨類」=クジラの仲間です。
明確ではありませんが、体長4mを境にして、これよりも小型のものを「イルカ」、これよりも大型のものを「クジラ」と呼んでいます。
ですから、水族館で人気の「バンドウイルカ」や「カマイルカ」もクジラの仲間です。
クジラの仲間は大きく分けて2種類で、歯が生えている「歯鯨」と、歯が変形してヒゲのようになった「髭鯨」がいます。
多くの小型鯨類であるイルカは歯鯨。大型鯨類であるザトウクジラやナガスクジラは髭鯨です。
捕鯨というと、大型のクジラを捕獲するイメージが強く南極近海で実施している南氷洋捕鯨が有名で、調査捕鯨もこの海域で実施されていたことが多いようです。
追い込み漁によるイルカ漁
国内では主に和歌山県太地町で毎年実施している「追い込み漁」の対象種は、小型鯨類の「バンドウイルカ」や「カマイルカ」、「オキゴンドウ」や「ハナゴンドウ」で、食肉としての漁です。
私はバンドウイルカやカマイルカの肉を食べたことも、売っている状態を見たこともありません。いったいどのくらいの方が、こういったイルカ肉を食べているのでしょう?
鯨類を食べる文化を持っている国は世界中でも多くなく、北欧の一部やモーリシャスなどに限られていて、他の多くの国や地域ではそもそもクジラを食べる文化もありません。
そういったこともあり、諸外国は捕鯨に対して否定的な考えを持っているようです。
さて、ではどうやって捕獲するのでしょうか?
「追い込み漁」という漁は、数艘の船がイルカの群れを追い込んで一度に多頭数を捕獲する漁です。
まずイルカの群れを見つけた船がイルカの沖合に回り込みます。そして他の船も、船と船の間隔を一定に保ちながらイルカの群れを囲い込んで入り江に追い込みます。
船の間をすり抜けて沖に逃げられないように、船からは大きな空き缶などを打ち鳴らして威嚇し、イルカの群れをどんどん入り江に追い込んで行きます。
和歌山の太地町の海岸線はリアス式海岸のように入り江がたくさんあり、イルカの群れを追い込むには最適です。
大きな音と船によって入り江に追い込んだイルカの群れが逃げ出さないように、入り江の入り口は網でふさいでしまい、その網を徐々に狭めて行きます。
狭い網の中に追われたイルカの群れは、そこで捕殺され港に曳航されて「食肉」として解体されます。
水族館で飼育しているイルカ
現在水族館で飼育しているバンドイルカやカマイルカなど、その多くは太地町の追い込み漁で獲られたイルカです。
食肉として捕殺されるのではなく、生体で確保して水族館が購入していました。
過去、動物園や水族館で飼育している動物の多くは、世界各地の野生個体を捕獲して導入していましたが、現在ではそれをせずに繁殖した個体を継続して飼育しています。
繁殖のために動物の貸し借り(ブリーディングローン)を行うことで、自然環境に負荷をかけずに、世界中の動物園水族館が協力して「種の保全」に取り組んでいます。
日本動物園水族館協会(JAZA)は、イルカについても他の動物と同様に、「イルカ追い込み漁」で捕獲された個体の導入を2015年に止め、繁殖推進してイルカを保全することとしました。
そしてJAZAに加盟している水族館で飼育しているバンドウイルカは今約200頭。
8頭しかいなくなったラッコや、5頭しかいないウンピョウに比べると、遺伝的な多様性は十分に確保できる頭数がいます。
今までは、いなくなれば購入していたことで、積極的に繁殖に取り組んでいなかっただけではないでしょうか?
水産資源としての利用を継続しているイルカを含めた鯨類ですが、水産資源であるとはいえ、哺乳類です。魚介類ではありません。
このイルカ漁で生業を得ている漁業者さんがいることはもちろん理解していますが、現在の日本における「イルカ肉」の必要性や需要に対しては疑問です。
動物園水族館という施設で飼育する動物は、出来るだけ現存飼育個体群の中で累代繁殖して行くことにしなければならないと思っています。
イルカだけが特別なことではなく、すべての動物でそうしなければならないはずです。
動物園や水族館の飼育動物はいなくなったら野生から獲って来て入れればいい、という考えはもはや通用しない。
今いる個体で種を保全すること!これが重要なことですね!
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